Skip to main content

屋上既存塩ビシート防水をQV工法で改修(前編)

築28年の世田谷区の鉄筋コンクリート3階建てマンション屋上における防水工事について、専門的な工程と技術的な背景を詳しく解説します。

本施工では既存の塩ビシート防水を撤去・補修し、最終的にウレタン塗膜防水を仕上げとする「サラセーヌQV-KK50Tフッ素工法」を採用しました。

防水層の耐久性や施工精度が建物の寿命に直接影響を与えるため、工程ごとの意義や重要なポイントを具体的に説明します。

この記事を通じて、工事の技術的な理解を深め、透明性のある施工内容をお伝えできれば幸いです。

①屋上平場 高圧洗浄

屋上平場の高圧洗浄は、防水工事の第一歩です。

既存の防水層に付着した泥、コケ、ほこりなどを徹底的に除去し、下地表面を清潔な状態にします。

汚れが残ったままだとプライマーや防水材の密着性が低下し、施工不良の原因となります。

築28年という建物の経年劣化により汚れが浸透していることが多く、特に注意が必要です。

高圧洗浄後には、下地の状態を確認し、補修が必要な箇所を特定します。

下地が十分に清掃されることで、後の防水工程全体の精度が向上します。

②屋上天窓 高圧洗浄

屋上天窓も平場と同様に高圧洗浄を行います。

天窓は雨水の浸入リスクが高い箇所であるため、特にガラス面やサッシ周辺の洗浄が重要です。

湯垢や水垢がガラスに付着している場合、洗浄剤を使用して除去し、視覚的な美観も向上させます。

この工程は防水工事と直接関係しないように見えますが、天窓周辺の下地に汚れが残ると、後のシーリング材や防水材が正しく付着しない恐れがあります。

洗浄後には、サッシの隙間やガラスの状態を確認し、不具合があれば補修を行います。

③立上り プライマー塗布

立ち上がり部分には金属プライマー「PE-670」を塗布します。

これは異種素材間(ステンレスなどの金属部分と防水材)を一体化させるための下地処理剤で、防水材がしっかり密着する役割を果たします。

立ち上がり部は建物外壁や笠木と接する部分であり、漏水リスクが高いため特に重要な工程です。

既存の塩ビシートが劣化している場合でも、このプライマーを使用することで新しい防水層を確実に接着させ、耐久性を向上させます。

④平場 プライマー塗布

平場には層間プライマー「P-60」を塗布します。

赤いプライマーが金属用であるのに対し、青いプライマーはウレタン層と既存の下地を接着させるためのものです。

築年数の経過により既存塩ビシート防水が劣化しているため、層間プライマーを適切に使用して、新しい防水材が強固に密着するように施工します。

この工程が不十分だと、防水層の剥離や水の浸入リスクが高まります。均一に塗布することで密着性能を最大限に発揮させます。

⑤施工前 平場の状態確認

施工前の平場では、既存防水層の「通気層」の切れ目やジョイントテープの不備が確認されました。

この問題により通気層が機能せず、内部に水が溜まりやすくなっている状態です。

このような劣化箇所を補修せずに新たな防水層を施工すると、再度漏水が発生する可能性が高くなります。

本工事では通気層の修復を徹底し、ジョイント部分にエンドテープを貼るなどの補強を行うことで、機能性を回復させます。

⑥既存脱気筒 撤去

既存の脱気筒を撤去します。

脱気筒は防水層内の湿気や水分を排出するための重要な設備ですが、既存のものは劣化が進み、機能不全に陥っています。

撤去後は、新しい通気層を設けるために必要な準備を行います。

通気層は防水層全体の健全性を保つために不可欠であり、この作業を怠ると内部結露や漏水の原因となるため、慎重に進める必要があります。

⑦脱気筒撤去後 下地調整

脱気筒撤去後の穴をモルタルで埋め、下地を平滑に整えます。

この工程では、脱気筒設置箇所を別の位置に移動するため、既存の穴を完全に埋めることが重要です。

不完全な補修は防水層の弱点となるため、モルタルの硬化状況を確認しながら丁寧に作業を進めます。

このように下地を整えることで、新設する脱気筒や防水層の性能が最大限発揮されます。

⑧笠木 プライマー塗布

笠木部分には、タイル側と屋上側で異なるシールプライマーを塗布します。

タイル側には変成シリコン対応プライマーを使用し、屋上側にはポリウレタン対応のプライマーを使用します。

これは、日光の影響を受けやすい屋上側と、そうでないタイル側で異なる性能を持たせるためです。

さらに、ウレタン防水材を密着させるための準備として青いテープを施工箇所に貼り付けます。

プライマーは防水層の密着性を大きく左右する重要な役割を持つため、ムラなく塗布することが必須です。

⑨笠木 シーリング材充填

プライマー塗布後、笠木のタイル部分と屋上部分にシーリング材を充填します。

この工程は、異種素材の接合部をしっかりと一体化させ、水や湿気が浸入しないようにするために行います。

特に笠木部分は雨水が集中しやすい箇所であり、漏水リスクが高いため、シーリング材の充填は正確に行う必要があります。

この工事では、紫外線に強い変成シリコンをタイル側に、柔軟性の高いポリウレタンシール材を屋上側に適用し、環境や用途に応じた素材選定を徹底しています。

➉笠木 ヘラ押さえ

シーリング材を充填後、専用のヘラで押さえ込み、表面を平滑に仕上げます。

ヘラ押さえを行うことでシーリング材の密着性を高め、隙間や不均一な箇所をなくします。

この工程では、施工面とシーリング材が確実に密着し、長期間にわたって防水性を維持できるようにすることが目的です。

また、押さえ込み作業中にシーリング材の内部に空気が残らないよう、均一な力を加えることが重要です。

⑪平場 QVシート貼り

平場には通気シート「QVシート」を貼ります。

このシートは防水層の下に空気の通り道を確保するためのもので、湿気や水分の滞留を防ぎます。

シートの貼り付けには、突き付け工法を用いて縦横のラインを正確に揃えます。

また、ジョイント部は一定の重なり幅を設けており、シート同士の接合部に防水性能を確保します。

このように碁盤の目のような規則性を持たせることで、施工精度を高めています。通気層が均一に機能するよう細心の注意を払います。

⑫平場 端末エンドテープ貼り

QVシートの端末部分にエンドテープを貼ります。

このエンドテープは通気層の機能を確保するために欠かせない部材で、シートの端部をしっかりと固定し、水分の浸入を防ぎます。

施工前の既存防水層では、このエンドテープが未設置だったために通気層の機能が失われ、内部に水が溜まってしまいました。

本工事ではこの部分を補強し、通気層の継続的な機能性を保証します。

⑬平場 シートラップ部 ジョイントテープ貼り

QVシート同士の接合部にはジョイントテープを貼り付けます。

このテープはシートの接合部を補強し、隙間を防ぐ役割を持っています。

また、通気層としての機能を維持するために、わざとシート間に一定の隙間を設けています。

これを「浮かし貼り」と呼び、通気層が連続してつながるように施工します。

ジョイントテープを貼らない場合、防水材が隙間に入り込み、通気機能が損なわれるリスクがあるため、非常に重要な工程です。

⑭ 平場 ジョイント部 ウレタン塗布

ジョイントテープを貼り付けた部分にウレタン防水材を塗布します。

この「捨て塗り」と呼ばれる工程は、仮防水層を形成するものであり、防水層の基本的な下地を作る重要な役割を担っています。

捨て塗りにより、ジョイント部分がしっかりと埋められ、後続の防水材が均一に密着する土台が完成します。

特にジョイント部は水分が浸入しやすい箇所であるため、隙間なく丁寧に塗布を行う必要があります。この工程により、平場全体が一体化された強固な防水構造となります。

後編では、階段庇や立ち上がり部分など、防水工事の中でも特に漏水リスクが高い箇所への施工について詳しく解説します。

金属部分とウレタン防水材との接合部に補強クロスを使用し、異種素材を一体化させるための技術や工夫を紹介します。

また、新設する脱気筒の役割や最終仕上げとなるウレタン塗布とトップコート工程も解説。

後編を読めば、施工の全貌がさらに明らかになります。お楽しみに!