今回のブログは、前回の続きです。
難しいことが多かった雑居ビル塗装工事見積り後、どのような工事をしたかについてお話し致します。
【前回の記事】

こちらのビルは、世帯数が16世帯ほど。世帯数は多くありませんが、さまざまな国籍の方が住んでいるため、通常の工事よりも支障をきたす部分がありました。また、とても古いビルだったため、今ある不具合すべてに手を入れようとするのであれば、大改修工事、もしくは建て直しが必要な状態です。

そんな中で、お客様の予算内で調整しながら、ビルを少しでも延命させるための手段を選択しましたのでご説明いたします。
このブログから、補修工事にはタイミングがあること、そして痛みが進んだ建物にどんな対応ができるのかなどをご覧ください。
塔屋の笠木部分へ行うカバー工法
屋上の防水工事前に、まずは補修工事を行います。こちらの建物は、前回の塗装から時間が経過し、放置時間が長かったためにさまざまな不具合が出ていた建物でした。
もしも、すべての不具合を直すのであれば、かなり大掛かりな工事が必要なのですが、予算の都合で最低限の中で最良の補修工事をすることになったのです。まずは、エレベーター機械室の屋根部分の笠木工事をします。

この建物にはエレベーター機械室と階段室が一緒になった塔屋(ビルなどの屋上に突き出すように建てられた小屋)があり、その塔屋の上には高架水槽が置いてありました。
塔屋の屋根はパラペット屋根のように、渕がぐるりと立ち上がっています。立ち上がり部分には笠木がかぶせてありました。
しかし、かぶせてあるはずの笠木は上記の写真のように無惨な状態です。
本来であれば、取り除いて工事をし直すのですが、今回は予算などの関係でこれ以上腐食を進めないことに重点を置き、笠木の上にガルバリウム鋼板を巻き付ける、カバー工法のような工事をします。
ただし、今回の工事は建物全体の足場が建たないので、道路側に面した部分の笠木は工事ができません。

それについては、オーナー様にご了承を頂いた上で工事しました。
塔屋の壁面も塗装するのですが、こちらもやはり足場がないと塗装できない面がありましたので、可能な箇所のみ塗装をします。
壁には錆汁なども多くついており、オーナー様からは錆汁を綺麗にしてほしいとリクエストがありましたが、錆汁を綺麗にするためには別の作業工程が必要となり、別途費用がかかること説明した上で、できる部分のみ塗装をすることにしました。
本当であれば、笠木全体を補修したいところではありますが、足場がない箇所に危険を冒してまで工事はできません。
できる範囲ではありましたが、少しでも劣化が進まないようにベストを尽くしました。
雨漏り、そして笠木を剥落させないというところに重点を置いて工事し、塔屋の笠木部分は終了です。
防水工事前の補修工事
次は、防水工事前の補修工事と塗装工事です。
最初に防水班の職人が現状のチェックをして、塗装班や補修班にお願いしたい作業がある場合は、ここでオーダーをします。
防水工事は、塗装班ではなく防水班というまったく別の職人が行うため、こうした連携が工事を滞りなく進めるために大切です。
そして防水材を撒く上で、意外なことに植物の根がネックとなります。

屋上などでよくあるのですが、床面の目地などに植物の種子が入り込み、発芽した植物が防水層を突き破って出てくるのです。
今回は旧防水層があるものの、あまりにも時間が経っていたため防水効果が切れ、植物の種が入り込みやすくなっていました。
そこで入り込んだ植物や根を駆除し、補修した上で屋上の擁壁などの塗装をします。
植物の駆除以外は、擁壁などを塗装して防水工事前の塗装は終了です。
点字と足場の関係
前回のブログでもお話ししましたが、建物を取り囲む道路に点字がある場合、足場を建てる費用が増します。
道路上の点字を、足場で塞ぐことはできません。足場は点字を避けて建てるか、点字をきちんと手順を追って移動して足場を建てるしかないのです。

今回も点字を避けて部分足場を建てましたが、建物の周りに点字ブロックがある建物は、余分に費用がかかりますので、工事を依頼する際には確認しましょう。
ここまでは、塔屋の屋根部分の補修工事、防水工事前のチェックなどお話しいたしました。
ここからはその続きで階段の手すり塗装、そして工事をする際に必要な居住者の方の協力についてお話し致します。どうぞご覧ください。

階段の手すりの塗装
こちらのビルの階段は、鉄枠の中にモルタルを流し込んで建ててある階段でした。
部分的に壁がないので、階段は吹きさらしになっています。そのため、雨水が入り込み鉄部の傷みがひどくなっていました。
鉄枠の階段は、鉄とモルタルは膨張率が違うため鉄の膨張にモルタルが引っ張られ、クラックができます。そして、クラックから水が入り込み、水と鉄が結びつき錆が発生するのです。
また階段の蹴り込み部分の場合は、錆によってできた穴で下に雨水が滴っているため、さらに錆が広がっている状態でした。

これは、吹きさらしの階段ではよく起こる錆の連鎖です。
実は、建設費用を安くあげるために吹きさらしの階段を選ぶと、その後メンテナンスに費用がかかり、階段に壁をつけた方が安かった…という結果になることがあります。
建てる際に、メンテナンスまで視野にいれているお客様はほとんどいません。
また吹きさらしの鉄階段だとしても、亜鉛メッキ、溶融亜鉛メッキを選ぶだけで錆び方は変わります。鉄よりも費用はかかりますが、錆びづらい建材を選ぶことでその後のメンテナンス費が変わるのです。
どうしても、費用面を考えると安いものを選びたくなります。しかし、家は30年、50年と長く住むものです。だからこそ、メンテナンスまで視野にいれて、工事や建材を選んで頂ければと思います。
今回はモルタルが割れ、錆汁がいたるところに出ていましたが、鉄枠のみの補修工事となりました。

しかも、鉄部は劣化が進み錆の出方もひどかったため、通常の錆止めだけでは効果が期待できません。。
そこで、今回は少しでも錆の進行を止めるために、ハイポンサビスタという補助材も使いました。
ハイポンサビスタは、除去しきれない部分の錆面にも付着しやすく、錆びやすい箇所では、防錆性をアップさせる補助剤
です。防食効果(金属、コンクリートなどの構造物で、腐食や劣化を起こさないようにし、構造物の安全性や耐久性をアップする効果)を高め、通常では錆止めを使用できない塩害地などでも使用できます。
塗装の手順は以下の通りです。

最初に錆をスクレーパーでこそぎ落とし、その後ハイポンサビスタを塗布します。

その後、錆止め、中塗り材、上塗り材と塗り重ね完成です。

ここで、ハイポンサビスタの効果を少し説明いたしましょう。
通常の工事で、錆止めを塗って乾かしている間に雨が降ると、雨が錆止めを通過し薄く錆がでます。しかし、ハイポンサビスタを塗ってから下地材を塗ると、塗装直後に雨が降っても水が入り込まず錆はでません。
それくらい、錆止めとして高い効果がある補助材です。ハイポンサビスタを使うことで四度塗りになるので費用は上がりますが、錆がひどい箇所には有効な手段となります。
この工事でも施主様がご承諾くださり、腐食が進んでいる階段の鉄部でしたが、なんとか補修工事ができました。
錆止めは、その効果を考えると2年に一度は塗りなおしてほしいのが塗装業者としての本音です。
鉄は腐食しやすく、建材には向きません。だからこそメンテナンスが必要なのです。
もし、ご自宅に鉄部があるようでしたら、一度点検をしてみて下さい。
1日でも早い錆補修工事が、家の寿命を延命します。
【関連動画】
居住者の理解がないことで台無しになる塗装効果
今回のような雑居ビルの場合、居住者の方の協力がないと、いくらオーナーの方が補修工事をしても効果が発揮されないことがあります。
こちらの雑居ビルは、オーナーは台湾の方でしたが、入居されているのも様々な国の方なため、英語などで張り紙をしても効果がありませんでした。

そのため、塗ったばかりの階段の手すりに傘をかけられてしまったり、塗ったばかりの壁面に台車を立てかけたりされてしまい、せっかくの塗装が剥げてしまう事態に……。
すぐにオーナー様にご連絡差し上げましたが、私たちで出来るのはそれくらいしかありませんでした。

せっかく費用をかけて工事しても、居住者の方に工事に協力する意識が無ければ、効果が半減してしまい本当に残念です。
雑居ビルやアパートなどで、居住者がいらっしゃる方はどうか居住者の方へのご説明を浸透させてください。
居住者の理解があってこそ、工事の効果を100%引き出すことができます。
【関連記事】
塗装工事を安くあげる最大のコツは塗装工事時期を逃さないこと
通常塗装職人の塗装工事は、傷んでいる箇所を補修工事した上で補強して、家が少しでも良い状態で持つように工事をします。
しかし、塗装工事の時期を逃し建物の劣化がひどくなってしまうと、どんな技術を持っても建物を良い状態にできず、今回のように現状を維持する工事が精一杯となってしまいます。
補修工事や塗装工事、防水工事は、ある程度の家の土台があって成り立つ工事です。

前回の塗装工事から10年経ったら、一度考えて下さい。塗装時期を逃さなければ、最低限の工事で家を長く持たせることができます。ご自分の家の状況を客観的に見ることは、良い工事をするための第一歩です。
築何年なのか、鉄部はあるのか、塗装が剥げているところや雨漏りなどのトラブルはないのかなど、ネットの情報ではなくご自分の目で確かめてみて下さい。
そして、業者を選ぶ際には良い事ばかりを言う業者ではなく、メリットとデメリットをきちんと伝えてくれる業者を選びましょう。
塗装職人では、オーナー様の考えと建物の状態から最良の提案をいたします。少しでも建物が良い状態になるように、もしくはこれ以上悪くならないように。お客様に寄り添った工事ができれば幸いです。
次回は、この雑居ビル塗装工事の最後、防水塗装工事についてお話しいたします。どうぞご覧ください。
【次回の記事】