工事前(現地調査・診断)
今回は目黒区内のALC(軽量気泡コンクリート建材)の4階建ての改修工事です。
この現場ではほぼ塗装や長尺シートなどすべてに手を加えるのですが、ここでは防水工事的な作業をメインに、屋上、バルコニーの防水工事と、外壁の下地、シーリングを説明します。
まず屋上は今にも雨漏りに多大な影響がある劣化が見つかりました。
外壁は基本ALCですが、部分的に鉄筋コンクリートの部分がありバルコニーの上裏(あげうら)にモルタルの剥離、屋上のアンテナ架台の防水層が破れて爆裂が起きてしまっています。
【3度目の防水工事で雨漏りを止めた屋上防水の参考動画】
足場
現場に足場が組まれたら作業開始となります。全体的に汚れてしまっているので最初は水洗いからの作業ですね。
足場にはメッシュで覆いがされていますが、台風が来ると分かっている場合、写真のように一度覆いを外し足場に巻き付ける作業を行います。
そのままで台風が来てしまうと、覆いが台風の強い風に煽られてしまい、最悪足場が倒壊する危険性があります。それを未然に防ぐために予め風に煽られないようにこのような処置をしておく必要があるのです。
【足場の設置と解体の参考動画】
高圧洗浄
足場が組まれたら高圧洗浄を行い建物の埃を落としていきます。職人はこれを単に水洗い、と呼ぶ人が多いです。現場では何かの呼び方が統一されていることが殆どですが、何故か監督などは水洗いのことを高圧洗浄と言う人が多いです。
高圧洗浄では埃だけでなく、建物についている苔なども一緒に洗い流して行きます。外壁の一部、ススのような汚れが一面についている箇所がありました。高圧洗浄をかけたところがキレイに落ちているのが分かると思います。
【外壁タイルの酸洗いの参考動画】
外壁下地
クラック処理
高圧洗浄が終わったら外壁補修工事を始めて行きます。
建物のひび割れ、クラック処理をしていきます。
0.2~0.3mm以下の細いヒビをクラック処理、それ以上をUカットとして別けるのが一般的です。
実はこのクラックの見極めは少しコツがいります。写真のような塗装面のクラックの場合、隙間に誇りが溜まり黒ずんでいることから実際のクラックよりも太く見えてしまいますが、実際は0.3mm以下であることが殆ど。
【外壁クラック補修(鉄筋コンクリート)の参考動画】
0.3mm以上のクラックの場合だと、塗装面がパックリ割れていることが殆どなのでパッと見ただけでもどちらか、と判断できるのです。
写真ではヒビが入ったところの一部が欠けてしまっているので、最初にシーリング材でそれを埋めて、その後にモルタルで埋め戻しを行っています。
これは外壁でもかなり簡単な部類の工事になるのでさほど時間もかかりません。このクラック処理と同時に塗装面が剥がれかかっている状態の塗膜剥離の処理も行う事が多いです。
なお鉄筋コンクリートと比較してALCの場合では、モルタル以外のサンモルCやクリオンパウダーなどのALC補修材を使用することがあるため、接着剤と補修方法が異なります。
【ALCパネル補修の参考動画】
爆裂補修
外壁の爆裂補修工事をしていきます。
写真だけを見ると、サビが染み出ているだけで大したことがないように見えます。
しかし実際、モルタルを斫ると表面から見た目以上に劣化していることが分かると思います。
職人が強引にモルタルを斫ったと思われるかもしれませんが、爆裂が起きた箇所というのはビックリするくらい簡単にモルタルが取れてしまうもの。それくらい傷んでいるということですね。
【鉄筋が膨張し爆裂したコンクリート補修の参考動画】
躯体の中のサビてしまった鉄筋が剥き出しになるくらいしっかりと斫り、鉄筋のサビと斫った際に出た埃を掃除。それが済んだらプライマーを塗り込みエポキシ樹脂モルタルで小手を使いながら形成します。
写真のような角の形成は慣れないと難しく、一部歪んでしまったりとなかなか写真のようにピシッとした仕上がりになりません。
国家資格で樹脂接着剤施工技能士という技能試験でも出題されますが、技術のいる作業です。
早めに乾燥する樹脂モルタルを使用してコテにて丁寧に成形し補修をします。
爆裂箇所の補修はこれで終わりですが、建物の景観を損なわないように後で上から塗装で仕上げれば完了となります。
モルタル補強エポキシ樹脂注入工事
モルタル箇所の注入工事です。
タイル注入同様、躯体の中の隙間をエポキシ樹脂で埋める工事です。工程は殆どタイルと同じですが、違いがあるとすれば最後の穴埋め作業でしょうか。タイル注入の場合、穴を開けた箇所は必ず目地材を使って埋め戻しをしますが、モルタル注入の場合は目地材を別に用意して埋める事はありません。空いた穴にそのままエポキシ樹脂で埋めたり、Kモルと呼ばれる材料とエポキシ樹脂を混ぜたものを使って埋めたりとその時によって様々です。
この工程関連の国家資格が当社の代表も所有している「樹脂接着剤施工技能士」です。
平たく簡単に言えば「ひび割れや欠損補修の専門家」です。
それとタイルの注入工事との違いは、必ずステンレスピンを穴に差すタイルと違い、モルタル注入の場合、場所によってはピンを差さないこともあります。
工程もタイル注入と同じです。まずは穴あけ作業からとなります。タイル注入と違い「タイル〇枚に1穴」と、明確な基準がないのもエポキシ樹脂によるモルタル注入の特徴かもしれません。
穴を開ける箇所は打診棒で表面を叩きながら特に浮いた箇所を重点に穴を開けます。穴同士の間隔は、大体20㎝から25㎝間隔くらい。これはスケールで計ったりする必要はありません。
【劣化個所とエポキシ樹脂補修の参考ページ】
穴を開け終わったら注入口の掃除を行います。写真ではエアダスターと呼ばれる空気が詰められた缶スプレーを使っていますね。この掃除もただエアを吹けば良いという訳ではなく、穴の奥、中間くらいの箇所で2回吹きます。どちらか片方だけでは中の埃を吹き飛ばしきれないので2回吹く必要があるのです。
また、埃が吹き飛べば良いのだろうと長時間エアを吹いてしまうと、缶のガスも出てしまい埃を固めてしまうので短く2回吹いて埃を飛ばします。
掃除が終わったらエポキシを注入していきます。穴からエポキシが漏れてしまわないようちゃんとウエスを噛まし、ポンプを使い圧をかけて躯体にエポキシを注入していきます。
注入したら穴を埋め戻して完了です。
【外壁のエポキシ樹脂注入補強の参考動画】
シール打ち替え(ALCジョイント目地、窓サッシシーリング工事)
シーリング工事です。
ALCというのは工場で作られる軽量気泡コンクリートのことです。
この軽量気泡コンクリートをパネル状にしたものを職人はALCと呼んでいます。
ALCパネルを外壁として使う場合、パネル同士を密接してしまうと地震が起きた時など密接したパネル同士がぶつかり簡単に破損してしまいます。それを避けるためにALCの壁は、わざとパネル同士に隙間が出来るように並べ立てることで、地震の衝撃でパネルが壊れないように並べられています。
【ALCの劣化と補修の参考ページ】
ALC外壁パネル目地のシール
当然パネル同士の隙間をそのままにしておく訳はなく、この隙間を埋めつつ衝撃を吸収出来るようにシール材が打ち込まれています。今回の現場はこのALCの隙間と、窓サッシのシール打ち換えを行っていきます。
ALCのシールから始めて行きます。今回は「撤去打ち替え」ではなく「増し打ち」と言われる施工法をします。
この「増し打ち」。職人の間でよく「シール工事の手抜き」のような言われ方をしていますが、増し打ちは何がなんでも手抜きという訳ではありません。場合によっては増し打ちの方が望ましい場合があり、その時の建物の作り、状況によって正しく施工法を選ぶのが正解です。
そもそもどういった増し打ちが手抜きなのか?それは既存のシールが完全に劣化しているのにも関わらず、劣化したシールの撤去すらしないで上から新しいシールを打ち込んでしまうようなケースを差します。
【ALCパネルのシールと塗装の参考ページ】
シールというのは、ある程度の深さがあって初めて効果を発揮出来るものなので、このように既存のシールを撤去しないようなやり方では、深さの無い所にシールを打つわけですからその効果も期待出来ません。
このALCの目地のシールは増し打ちが選ばれることが多い箇所。この箇所が何故増し打ちが選ばれるのかと言えば、ALCの目地が元々深く(パネルの種類にもよります)、既存のシールが十分に生きている状態であることが多いことと、既存のシールを撤去しなくとも十分な深さがあることです。
既存の生きているシールをさらに強める補強、と考えて頂ければと思います。
そのような箇所で撤去作業をすると、手間がかかる分コストも嵩むので増し打ちという選択がベスト、となるので増し打ちが完全に手抜きという訳ではく予算のことを考えればオーバースペックということにもなりかねません。
また、大手のALCメーカーも最初の改修工事の時は増し打ち、二度目以降に撤去を推奨していて、ALCは鉄筋コンクリートと違いカッターでもすぐ削れてしまう発泡素材のため無理な撤去は厳禁となります。
作業的には撤去が無いので埃などをキレイに掃除した後、マスキングテープで養生をしプライマーを打っていきます。
プライマーが乾いたらシール材を充填し、ヘラで押さえてマスキングテープを剥がせばALCのシールは完了です。
【ALCパネルの目地シール補修の参考動画】
ALC外壁サッシ廻りのシール
次は窓サッシのシールです。こちらはALCと違い溝の深さがある訳ではないのでキチンと撤去してから打ち換えです。塗装のあるサッシ周りの撤去の際、写真でも分かる通りアルミサッシに塗装がこびりついているのが見えます。これが残っていると、残った塗装がバリのようになってしまいシールを均しても効果が発揮出来ないだけでなく、見た目もキレイに仕上がらないので、こびりついた塗装もちゃんとキレイに取ります。
撤去が終わったらALC同様、マスキングテープで養生をしプライマーを打ち、それが乾燥したらシールを充填します。
充填したシールをヘラで均し、マスキングテープを剥がせばシール工事は完了です。
【ALCパネル塗装の参考ページ】
ルーフバルコニーウレタン防水
ルーフバルコニーとバルコニーのウレタン防水工事です。
施工前はかなり汚れています。もちろん洗浄してからの施工になります。
バルコニーの防水工事は一般的に密着工法と呼ばれる施工法で工事をします。密着という言葉の通り、躯体面とウレタンが密着させる工法です。
建物は目には見えず、体感することも出来ませんが常に「動いて」いるものです。
この「動き」により建物にクラックが入ったりするのですが、ウレタンを流した後に「動き」によるクラックが入っても問題が出ないようにメッシュ状のガラスクロスを入れていきます。
既存の防水がアスファルト防水やゴムシート防水でなくウレタン防水だった場合、既存防水の撤去の必要はありません。既存のウレタンの上から新たなウレタン層を作って問題ありません。写真のバルコニーは既存の防水がウレタン防水なので、この上から新たなウレタンを流していきます。
バルコニーには室外機などが置いてあるケースが多いので、まず最初にウレタン工事が出来るようにそれらの処理から始めて行きます。この処理は様々ですが、写真に写っているようにバルコニーの手すりに縛り付けて対応することもあります。
【室外機の下の防水工事の参考動画】
荷物を動かしウレタンを流せる状態を作ったら掃除を済ませプライマーを入れていきます。
既存の防水がウレタンだった場合、層間プライマーという通常のプライマーとは違ったものを使用します。プライマーというのは強力なもので、ウレタンの上から塗ってしまうとウレタンが侵されてしまうものです。層間プライマーはそれを避けるために作られたプライマーで、このプライマーであればウレタンが侵されることがありません。
プライマーが乾いたらウレタンを1層、2層と流します。ウレタンが硬化したらトップコートを塗って完了です。
【バルコニーのウレタン防水の参考動画】
屋上防水
屋上の防水工事です。
既存の防水は劣化してはがれている場所もありました。
架台には以前塔が設置されていた跡もあり特別な処理をされていたわけでもなくさびも発生していました。
パラペットにある端末部の取り合いシール部も劣化してまいしたが、床面平場よりドレンやこのような場所が最も雨漏りしやすい場所でもあります。
バルコニー、ルーフバルコニー同様既存の防水がウレタン防水なので撤去作業はなく、既存ウレタンの上に新しい防水層を作って行きます。
本来であれば屋上の場合、通気緩衝と呼ばれる施工法になりますが既存のウレタン防水でそれはやってある状態なのでバルコニー、ルーフバルコニー同様ガラスクロスの補強を入れた密着工法での作業となります。
直ぐに作業へ取り掛かりたいところですが、ウレタンを塗る箇所に下地補修が必要な箇所があるので最初にそちらから取り掛かり、それが終わってからウレタン防水の作業へ入ります。
他にもアルミ笠木が取り付けられているので、それの取り外し作業も必要です。
下地処理とアルミ笠木の取り外しが終わったらウレタン防水工事に取り掛かります。掃除を済ませたら全体に層間プライマーを入れ、乾燥させたらガラスクロスを入れて行きます。
壁面のガラスクロス入れはあまり難しくはないですが、土間のガラスクロスをキレイに貼るのは意外と難しいです。壁面は固いウレタン材料を使うので、一度ガラスクロスを押さえてしまえばヨレることなくキレイに貼れますが、土間のクロスは柔らかいウレタンで押さえていくのでそうはいきません。柔らかいウレタンで貼り付けるので、その最中にクロスの中に空気が入ってしまったり、それが原因でヨレが出てしまったり。クロスとクロスを5㎝以上重なるように貼って行くのですが、それらが原因で貼り終わったクロスがまたヨレたりと、見た目以上に難しいのが土間のクロス貼りです。クロスの真ん中から外へ、と空気の逃がす様に貼る、という事がセオリーですが完璧にキレイに貼るのはコツと経験が必要です。
また、端から貼って行けば良いと言う訳ではなく、勾配の一番上から貼るので上手く逃げ道を考えながら貼らないといけないのも難しいところです。
クロスを貼り終えれば後はウレタンを1層、2層と流すだけです。この作業もウレタンが均一に流すのにコツがいりますが、土間のクロス貼りに比べればまだ簡単な作業となります。
【ウレタン防水材の説明の参考動画】
ウレタンを2層流したらトップコートを全体に塗って、アルミ笠木を元に戻し、ストレーナーを取り付ければ屋上防水は完了となります。