目次
今回のブログも、前回書きましたお客様宅のお話です。
1階がお店で、陸屋根の上にオーナー様のご自宅があるこちらの建物。
今回は、ALC壁の塗装について書きたいと思います。
〔前回のブログです〕
ALCは地震に強いと言われていますが、それにはさまざまな理由や、ALCだからこそ気をつけなければならないことがあるのです。
今回、施主様はALCの特性を理解した塗装材や防水材をご選択なさいましたので、そちらについてご紹介します。
ALCとはどんな建材なのか
ALCとは、「Autoclaved Lightweight Concrete」の略称です。日本語訳をすると「高温高圧蒸気養生された軽量気泡コンクリート」。
外壁材として使用できる素材でありながらも、軽いため地震などの揺れに強く、建物の外壁材として重宝されています。
ところが、このALCには大事な決まり事が一つあるのです。
それは、仕上げの際に皮膜=表面のコーティングをしなければならないということ。
外壁の中に水が入り混まないように、塗装やシーリングなどをして皮膜を施すことが必要なのです。
なぜならば、ALCの中身は軽石のようになっており、中身がむき出しになると水を吸って柔らかくなります。
シリアルに牛乳をかけると柔らかくなりますよね。それと同じです。
そのため、ALCは亀裂が入ってもダメ、シールが剥げてもダメ、塗膜が剥がれてもダメ。
さらには、エアコン用に外壁に穴を開けるのはもってのほかなのです。
〔関連記事:ALC塗装について〕
ALCは地震に強いけど割れやすい?
さらには、このALCは割れやすい素材でもあります。
先ほど「地震に強い」と書いたのに、割れやすいというとおかしな感じですよね。
実はALCが地震に強いと言われているのは、軽さが理由です。
地震が起きても、建物自体が軽いため揺れが少ない…というのが「地震に強い」という表現となります。
ALCは、パネルとパネルの間に、60ピッチくらいにシーリングを打って、壁を壁の隙間を繋ぎ、建物のムーブメントについて行けるようにすることで、割れにも対応することが可能となるのです。しかし、ALCで施工されるお客様が全て細かにシーリングを打っているかといいますと、そうではありません。
ALCの特徴を知らずに、シーリングをあまり打たず、ALCを採用しているお宅をみかけます。
先日も、自宅そばにスーパーがあるのですが、まだ建って3年くらいにもかかわらず、すでに補修の跡が見られました。
外からみると、ALCの建物であることが分かりますので、きっとどこかで雨漏りでも発生したのでしょう。
あまりシーリングも打っていないからこそ、建物のムーブメントについていけず割れなどがでたのかもしれません。
僕がALC構造のお宅を担当する際に、雨漏りがあるときは、必ず上階から見て行きます。
ALCは非常に水が染みやすく、2階に出ている雨漏りの原因が4階部分にあることなどもザラだからです。
ALCはこれらの理由によって、地震に強いにもかかわらず、RCよりも値段が安い建材です。
しかし安いからこそ、RCよりもマメなケアが必要な建材でもあります。
〔関連記事:ALCの劣化症状〕
意外と多い間違ったALCの外壁工事
上記でALC構造というものがどんな特性があって、どのような弱点があるのかを書きましたので、次はどのような補修工事だと雨漏りになってしまうかと言うことを、ご説明いたします。
ALCは、実際壁材として使用する際は、パネルをパズルのようにくみ上げますが、外壁は家によってさまざまな形状をしているため、パネルをはめるには狭い箇所が出てくることがあるのです。
そうなると、そこに端材をくっつけるのですが、この端材の処理の仕方で、雨漏りに繋がる場合があります。
先ほどもお話ししましたように、ALCはシーリングでジョイント部分を作りながら貼り付けるのが通常です。
ですので、端材にもシーリング材を打てばいいのですが、塗装のフィラーでくっ付けてしまう業者もいるのです。フィラーはデコボコやひび割れを埋めるための下地材で、防水効果はありません。
すると、塗装後にフィラーが切れ、そこから雨水が浸入し雨漏りになってしまうことが……。
さらに、工務店の工事でよく見かけるのが、目地が足りないALC構造の壁です。
ALCは、縦横と目地打ちをするのですが、工務店の多くは横目地だけ打ちます。
本来は、ツキツキといって、突き当たりから突き当たりに目地がクロスするように目地打ちをし、以下の写真のように窓枠まわりもしっかり目地を打つのです。
しかし工務店の場合、窓枠もただ壁にはめただけでシーリングしていない場合も。
こうなってしまうと、ALCの建物はムーブメントに耐えられず割れたり、シーリングを打っていない隙間から雨が入り込んだりして雨漏りにつながります。
せっかく地震に強いALCを選んでも、工事の仕方が不十分では効果が発揮されません。
関連動画 一級技能士による鉄骨ALC建物のシール作業
ALCには柔軟性が不ある分、その上から貼ってあるタイルにも影響が出る場合もあります。
こちらは別の現場の動画ですが、タイルの張り替えとシール、今後のクラック対応として誘発目地を作っています。
ALCに適正な工事、補修工事とは
ALCは地震に強いという面がある一方で、水に弱い建材であることをお話いたしました。
それでは、どのような工事が適当なのでしょうか。
それは、できるだけ細かく縦横に目地を打ちながらおこなう工事です。
また補修の際には、打診後外壁の破損部分をチェックし、板間はマシ打ちをし、サッシ周りはシーリングを撤去して新しいシール材を入れ、ALCの上に貼られたタイルの目地は撤去後に打ち替えをし、タイルの滑落部分は補修をし、その上に皮膜となる防水材を被せると良いでしょう。
今回のお客様宅では、この最後にかぶせる防水材にセブンSSが選ばれました。
セブンSSは、防水材として非常に良い材料です。
防水仕上げ材なのですが、表面に貼り付けられたタイル割れや目地割れ…つまりはALCのパネルを守ってくれます。
材料の用途として滑落防止は謳っていませんが、塗装するとフィルム状になるため、何もしないよりははるかに滑落を防ぐことも可能に。
セブンSSを使って、下地造りをじっくりすることで、ALCの利点を活かしつつ長持ちさせることができるのです。
ちなみに、通常であれば塗装の前に高圧洗浄をかけるのですが、ALCの場合は防水対策をした上で、高圧洗浄となります。
なぜなら、壁の中に水を入れたらせっかく工事する意味がないからです。
このセブンSSは、あくまでも塗装する前の下準備となります。
〔関連記事:ALC4階建ての防水工事と外壁補修の改修工事〕
ALCに適切な補修工事をするために
今回のお客様は、ALCという壁自体の問題点を理解してくださったことで、このセブンSSをご選択くださいました。
お客様からご希望として、「ご自宅と1階の店舗(大通りに面しているので目立つ)を持たせるために、しっかりとした補修工事がしたい」とお話をうかがっていましたので、僕も「それならば」とセブンSSを候補に入れました。
セブンSSは5回塗りのため、正直費用もかかります。そして薬の部類としては劇薬ですので、慎重に様子を見ながら工事することが必要です。
しかし、その分持ちもよく、ALCの建物を守ることに関してはピカイチでしょう。
お客様が求める効果がはっきりしていたからこそ、ALCという土台に適した建材選びが出来たのだと思います。
〔こちらの現場のセブンSS施工動画〕
塗装工事の選び方 大事なのはどう家を守りたいかということ
塗装職人にご依頼をくださるお客様の中には、どうしても予算の関係から思い切った工事に踏み切れない方もいらっしゃいますし、まだ安さを重視してしまい本来であれば気にしなければならない外壁の性質などに目を向けない方も……。
営業としては、少しでも自分の持っている知識を使ってお客様の家を長持ちさせられれば…といつも考えています。
それでも、そうした想いはなかなか伝わらないのです。
今回のお客様は、冷静にご自宅の把握をして下さり、ベストな工事のご選択をして頂きました。
ALCの状態を正しく理解して頂ければ、今現在費用がかかったとしても将来的には大規模な修繕の費用がかからず安くなるのです。
塗装は、それぞれの家で使う素材や工法などが変わります。
予算、立地、もともとの土地の状態や環境、家のポテンシャルなどによっても、工事の内容と費用は変わるのです。
よく、「お隣はこの金額だった」とおっしゃるお客様がいらっしゃいますが、お隣とお客様の家では立地も代わりますし、なによりも職人が違うだけでも家の状態は変わります。
だからこそ、使用している建材が正しく扱われているかなどを確かめた上での工事が大切です。
しっかりと、外壁材の理解をした上で工事を依頼すれば、その瞬間は費用がかかったとしても、将来的には安く済むことになるでしょう。
次回もこちらのお宅の他の施工内容について、お話ししたいと思います。
どうぞお楽しみに。