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デザインに優れた工事?費用の安さに特化した工事?工事の見るべきところとは

By 2023年10月17日防水担当の日誌

先日、外階段の長尺シートの貼り込みがご縁で伺った施主様のお宅がありました。
その際に、階段にできる水たまりについてご相談があったのです。

こちらのお宅は、世田谷にある建物なのですが、階段室の屋根が変わったデザインになっていました。
そこで屋根上に登らせて頂くと、いろいろと不具合が見つかったのです。

きっかけは階段の長尺シート

お客様宅は、もともとメンテナンスを他の会社に任せていらしたのだそうです。
共有部のクリーニング会社の人が知り合いで、防水などちょっとしたことをクリーニングのついでにやってもらっていたのだとか。
ところが、階段部分の塗装が剥がれてきてどうしてもそれが嫌だと奥様がおっしゃり、長尺シートをご検討していただき、弊社に相談がきました。

そこで長尺シートを提案しました。

 

たしかに現場を見てみると、これまで塗装の専門ではない業者が塗装したことで、塗料としては正しくないものが塗られています。

施工後、お客様はかなり喜んで頂けました。
そしてこれがきっかけで、階段にできるみずたまりについてもご相談となったのです。

デザインを優先したことによる雨漏り

この水たまりの原因は、屋根部分にありました。
お客様の家は、ご主人の後輩の建築士の方がデザインをして建てた家だったのですが、ところどころデザインに特化したゆえの不具合があったのです。

 

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というのも、建築士の方は理論上でデザインを優先した建物を建てる方が多く、異質な素材を掛け合わせることがあります。
これは、大工や施工する職人からすると、建てられるもののその後のメンテナンスの難しさや、部材の相性の悪さから回避する『掛け合わせ』なのですが、設計する人、建てる人、管理する人などが違うことによって、不具合ポイントを誰も指摘することなく建物が建ってしまうことがよくあるのです。

今回もこちらのガラスがはめ込まれた階段室の屋根上に上ってみますと、笠木部分にはステンレス製の笠木がかぶせてあることで、防水層、そしてコンクリートの間が裂けていました。

というのも、ステンレスは熱膨張率が高いため、伸縮が激しく防水層などがそれに引っ張られたことで伸縮について行けず裂けてしまいます。まだ普通のかぶせるタイプの笠木であれば、このようなことは避けられていたのですが、屋根と一体化した埋め込みタイプの笠木だったため余計に……。

さらに床部分も破断していました。
そして何よりも、こちらの屋根を取り付けた数十年前はここまでの異常気象(ゲリラ豪雨や暴風雨)が起こることは予想されていなかったのです。

そのため、屋根の空いた隙間から雨の吹き込みが多くなり、余計に傷みが進行しています。


防水層も薄い仕様でしたので、もしかしたら少し費用を安くするためだったのかもしれません。
本来であれば、防水のためのプロテクトをかけるべきところにプロテクトがなく、雨漏りはなるべくしてなった結果といえます。
もちろん家を建てる際には、すべてが100%完璧な状態で建つ家というのは存在しません。

なぜなら、家というのは火を使い、水を使い、ある部分では溶剤を使い、そして異素材を組み合わせ、その全てが丸く収まる建築方法は存在しないからです。
どこかに不具合はでてしまうので、それらを予想して少しでも不具合が少ないようにプロテクトをかけるのが、プロの仕事といえます。
しかし、こちらの屋根は建築士の考えを重視し、そのままの状態で建てられていました。

もしも、この工事中に「このままでは雨漏りなどが起こってしまうかも…」と職人なりが声を上げていたらこうはならなかったかもしれません。
ですが、その時の工事にかけられた費用や、職人をまとめる管理者の指導などが上手くかみ合っていなければ、こうした現場の声は出てこないでしょう。

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現場監督の仕事とは

デザイン重視の家で現場の声を通すためには、管理者の力量が問われます。
そして管理者がどのように建築士と交渉するかによっても、デザインを維持しながら丸く収めるのは至難の業です。
こうした不具合の現場を見ると、やはり僕は現場管理の大切さというものを皆さんにお伝えしたいな…と思います。

イビチャ・オシム氏の言葉に『水を運ぶ人』という言葉があるのをご存じでしょうか。
これは、10人をベストパフォーマンスで活躍させるために、水を補給しメンバーを支える11人目のメンバーのことを指します。
日本の古いことわざで言うところの『縁の下の力持ち』などが近い意味です。
この水を運ぶ人が、いわゆる現場監督なのだと僕は思うのです。

家の設計士、足場、防水、屋根、塗装、大工、シール、板金などそれぞれの職人やプロたちの意見ややり方をふまえて上手くまとめあげる。
これが現場監督の仕事です。
この作業が上手くいけば、工事は上手くいきます。

関連動画 剪定・溶接・屋根塗装・タイル塗装・左官・長尺シートと、工程山盛りの大規模修繕

逆に、この現場監督の仕事は一番目に見えないため、費用でもカットされやすい部分です。
しかも、年齢がいっている現場監督ならだれでもいいか…というわけではなく、現場監督には経験も度量も必要となります。
トラブルをまとめられる力もないといけません。

僕は工事の際に、必ず工事で起こりうる不具合についてもご説明します。
屋根工事、防水工事、塗装工事などの組み合わせを考えて、不具合を予測するのです。
これを説明すると「それって逃げでしょ?」とおっしゃる方もいます。
僕からすると、これは逃げではなくリスクヘッジです。

工事によって起きるかもしれない事柄を1歩先、2歩先を見て考えておくことによって予防策を立てます。
逃げるのであれば、起こるかもしれない不具合など話さなければいいのです。
逃げも隠れもしないからこそ、こうして不具合の可能性までお話します。逆にいえばこれは、ある意味塗装職人としての誠意なのです。

今回の工事では、雨の侵入経路が複数ありました。
できるだけの補修工事を行いますが、雨を引き込む箇所、雨が侵入する箇所…全て根治するのは難しいかもしれません。
それでも、できるかぎりのことをしたいと思っています。
これで工事すべき点については分かりましたので、次はいよいよお見積もりです。

 

現場調査で、屋根上の写真をお客様に見せてご説明したところ、爆裂や裂け目などを見てすぐにご納得頂けたので、さっそくお見積もり依頼となりました。
その見積もり打ち合わせでも、工事の見るべき点がありましたので、ご紹介したいと思います。

見積もりで見るべきところ

今回の見積もりと工事内容をご説明するにあたって、実はお客様以外にもこちらの家を継がれるお孫さんも打ち合わせに参加されていました。
(お客様自身が90歳近いので、お孫さんといっても20代の方です)
僕が今回の屋根工事について説明したところ値段をみて、「ここはこうすればいいのではないか?」「ここはもっと値段を抑えられるのでは無いだろうか」とお客様ご自身で調べたことを元におっしゃっていました。

これについては、すべて作業が必要な理由や内容をご説明したのですが、なぜか途中から金額にフォーカスが当たってしまい、本題である雨漏りを止めるということから目的がずれてしまうことに。
最終的には料金を基軸にした工事内容の決め方ではなく、雨漏りを止めることを基軸にした工事内容の決め方になりましたが、このように目的がずれてしまうことは見積もり依頼時によくあります。

どうしても作業としての項目、塗料や部材そして金額を並べてみると弊社が高いと言われてしまうのですが、実際の内容で見比べた場合、その差額というのは職人の技であったり、施工方法の差であったりすることがほとんどです。
例えば工事項目の『三回塗り』ひとつ比べても、しっかりと補修工事をした上で細部まで下塗りを行い、厚みのある中塗り、上塗りをするかどうかというのは、技量と職人の根気、そして現場監督の管理にかかってきます。

もしもいくつかの業者で見積もりを取って、安い金額に一番の魅力を感じたのであればその金額を出してきた業者で工事をするべきです。
弊社では、その金額ではできません。
職人には、職人の技量に見合った費用が必要ですし、値段を安くするために職人の費用やお客様の家を大雑把に工事するのは本末転倒だと思うからです。

紹介した屋根の結果を見れば明らかだと思うのですが、一方だけに優れた工事は、必ず不具合が起こります。
デザインに特化したからこそ、するべき防水対策などがされておらず、階段まで浸食する雨漏りとなってしまったのです。

見積もりも同じです。費用だけに注目すれば、その値段に含まれる様々な要因に目を向けることができません。
何事においても、片側だけしか見なければ必ずほころびが出てきます。

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見積もりの流れ・お願い

だからこそ、さまざまな方向から考える必要があるのです。
塗装工事であれば、塗装箇所の状態、年数、環境、建物にあった塗料、塗料に合った塗装方法、職人の技量、塗装会社の現場経験、足場、補修工事…これら全ての方向から考えて判断しなければなりません。
費用も同じです。部材の値段、塗料の使用量、職人の熟練度、工事の項目、不具合に対する対応など。これら全ての方向から考えて費用が妥当かどうか判断する必要があるのです。

塗装工事の業者でない限り、こうした見えない部分を見ようとするのは、まるでステルス戦闘機を発見するようなものなので、難しいと思います。
それでも、私たちのような塗装工事に真っ向から向き合っている業者には、見積もりの明細には載せていないような細かい企業努力がたくさんあるのです。

トラブルを納めるための再塗装工事で大切なこととは

塗装工事は、最低でも建ってから10年経った家を塗装します。
そのため、新築の家を塗装するのとはわけが違うのです。
この家のように、さまざまなトラブルが出てしまっていればそれを納めてまとめ上げるだけで、非常にカロリーが必要な工事となります。

僕はいつも、塗料のことを薬に例えるのですが、それは古くなって傷んだ箇所に塗る塗料だからです。
傷んだ箇所に、適当に塗料を塗れば最初よりも状態が悪くなることがあります。

新築ではなく、年数が経っているからこそ、きちんと状態を見極め適切な塗料を処方する必要があるのです。

関連動画 12年振りの再塗装1年後のお隣塗装

 

こうした処方するための判断は、現場を経験しメーカーと付き合いがなければできません。
先日のブログで最初に紹介しました、工事のきっかけとなった長尺シートの張り込みも、まさにこの処方の一部なのです。

僕は、相見積もりを取って頂くのはいいことだと思います。
比べて、違いを知ってもらいたいと思うからです。

内容について分からないこと、疑問があればいくらでもお答えします。
いつでもお問い合わせ下さい。
お客様の家にとって一番必要な工事を、弊社が持てる知識や現場経験を持ってあらゆる視点からご提案させて頂きます。