目次
築33年の鉄筋コンクリート造(RC造)3階建て建物の屋上における防水改修工事を解説の後半を紹介します。
この工事では、既存の「塩ビシート防水層」を活用しつつ、上に新たに「ウレタン塗膜防水」を積層することで、既存防水層の延命と防水性能の向上を図ります。工法として採用したのはサラセーヌ タフガイ SD-AK25T サーモ工法で、耐久性と遮熱性を備えた仕上がりを実現します。
本記事では、工程ごとに詳細な解説を行い、建物環境や下地状況を踏まえた施工プロセスを専門的な観点からご説明します。
⑬ 屋上平場補強クロス張り
平場の一部では、下地の補強として**補強布(クロス)を張り付けます。
この工程は、平場全体に施すのではなく、特にジョイント部(継ぎ目)**などの補強が必要な箇所を中心に行います。
この補強布は「タフガイ堅鎧」という高強度の素材で、これにより下地の不均一性を補正し、上に塗布するウレタン防水層の密着性と強度を高めます。
塩ビシート防水の特性上、経年劣化による浮きや剥がれが発生する可能性がありますが、今回は劣化が軽微であったため、塩ビシートを活かした施工が選択されました。このような場合、クロスの部分的な補強が、ウレタン層との一体化において重要な役割を果たします。
⑭ 脱気筒①(穴あけ)
脱気筒は、防水層下に溜まる湿気や水蒸気を逃がすための部材で、これを適切に設置することで防水層の膨れを防ぎます。
最初に、脱気筒を取り付けるための穴をカッターで開けます。
この作業では、既存の塩ビシート防水層の状態を確認し、下地まで穴を通す必要があります。
施工箇所の湿気状態を正確に把握することが重要で、湿気が多い箇所では脱気筒の数を増やす場合もあります。
このような処置を取ることで、防水層の長期的な安定性が確保されます。
⑮ 脱気筒②(脱気筒の取り付け)
穴あけが完了したら、脱気筒をドリルで下地に固定します。
ネジを使用して確実に固定することで、後の防水層との一体化を容易にします。
脱気筒の設置箇所は、事前に湿気の溜まりやすい場所を選定することが重要です。
脱気筒が適切に機能することで、下地内部の水分を効率よく排出し、ウレタン防水層の膨れや剥離を防止します。
この工程では、取り付けの強度と水平を保つことが求められます。
⑯ 脱気筒③(補強布の取付)
脱気筒を取り付けた箇所には、補強布を貼り付けます。
補強布は脱気筒周辺の防水層を強化し、継ぎ目となる箇所の弱点を補う役割を担います。
この際、塩ビシートの特性を考慮して、表面が滑らかになるよう均一に貼り付けることが必要です。
塩ビシートは湿気を含む場合があり、脱気筒周辺の施工には慎重な確認が求められます。
また、この脱気筒の設置には一部で賛否がありますが、湿気が残りやすい環境では必要な処置と言えます。
⑰ 屋上平場 ウレタン塗布1回目(K材)
下地の補強が完了した後、平場全体に**ウレタン樹脂(K材)**をローラーで塗布します。
K材はウレタン防水の基礎層を形成するもので、この塗布が防水層の一体性を決定付けます。
ローラーで均一に塗布することが求められますが、下地の吸収性や凹凸に応じて塗布量を調整する必要があります。
サラセーヌの高性能ウレタンは、高い密着性を発揮し、塩ビシートとの相性も良好です。
この層が、防水性能の基礎を支える重要な役割を果たします。
⑱ 屋上立上り ウレタン塗布1回目(K材)
続いて、立上り部分にもウレタン(K材)を塗布します。
立上りは特に雨水が侵入しやすい箇所であり、平場とは異なる動きをするため、慎重な施工が必要です。
この工法では、平場用と立上り用のウレタン材をミックスして使用します。
塗布にはローラーを使用し、均一な厚みを保つことで防水層の耐久性を確保します。
また、立上り部分の下地が垂直であるため、塗布作業には熟練した技術が求められます。
⑲ 屋上立上り ポリベラを使用した仕上げ
立上り部分においては、平場とは異なる力がかかるため、防水層の精度がさらに重要になります。
この工程では、先に塗布したK材とA材をミックスした材料を、専用の「ポリベラ」を使用して均一に仕上げます。
この混合材料は硬度が高く、通常のウレタン材より粘性があるため、ポリベラのような平滑なヘラを用いることで効率よく塗布・成形が可能です。
立上り部分は雨水が滞留しやすく、平場との接合部分に動きが生じやすい箇所です。
このため、K材やA材を正確に調合して使用することで、防水層の耐久性と柔軟性を確保します。
また、塩ビシート防水層との相性を考慮しながら密着性を高めるように塗布を進めます。
この工程の仕上がりが、施工後の漏水トラブルを防ぐ要になります。
⑳ 屋上平場 架台部分へのK材塗布
屋上の架台部分は、設備機器が設置されるために荷重がかかりやすい箇所です。
さらに、形状が複雑で凹凸が多く、施工が難しい箇所でもあります。
このため、K材をローラーで丁寧に塗布し、防水層の密着性を高めることが必要です。
架台部分では、下地が金属やコンクリートの場合が多く、塩ビシート防水との接続部分もあるため、材料の塗布量や均一性が重要となります。
特に、ローラーを使う際には、材料がムラなく行き渡るように技術的な配慮が必要です。
この工程によって、架台周辺の水分浸入リスクを大幅に軽減します。
㉑ 屋上平場 架台部分へのA材塗布、平場へのA材塗布
架台部分にK材を塗布した後、仕上げとしてA材を塗布します。
この高強度ウレタン材は、塩ビシート防水の上に形成されたK材層との一体化を強化し、防水層全体の耐久性を向上させます。
A材は硬化後の強度が高く、長期にわたる防水性能を支えるために欠かせない層です。
さらに平場全体にもA材をローラーで均一に塗布します。
塗布面のグレーから青みがかったグレーへと色が変わり、K材とA材が異なる層であることを目視で確認することができます。
この色の違いは、施工時のチェックポイントとなり、作業ミスの防止にも繋がります。
A材の特性により、防水層は引っ張り強度と柔軟性を併せ持つ仕上がりとなります。
㉒ 屋上平場 トップコート(遮熱性)
最終的な仕上げとして、平場全体に遮熱トップコートを塗布します。
このトップコートは、夏場の屋上温度を下げるための遮熱性能を有しており、塩ビシート防水特有の温度変化による伸縮を抑制する役割を果たします。
また、トップコートは紫外線による防水層の劣化を防ぐための保護層として機能します。
トップコートの塗布には、長柄ローラーを使用して広範囲を効率的に施工します。
この際、均一な厚みを保ち、乾燥ムラを防ぐために塗布速度や塗布量を細かく調整する必要があります。
この工程が、防水工事の仕上がりを左右する重要なポイントです。
㉓ 屋上平場 色の違い(K材とA材の2層構造)
施工後の防水層を確認すると、平場の床面に2色の塗膜(ライトグレーとブルーグレー)が見られます。
ライトグレーはK材、ブルーグレーはA材で、それぞれ異なる役割を持つ高強度ウレタン材料です。
この2層構造は、塩ビシート防水層の上に直接施工する際に推奨されるSD-AK25T工法の特長です。
K材は、防水層の基礎となる層を形成し、塩ビシートとの密着性を高めます。
一方、A材は仕上げ層として、引っ張り強度や耐摩耗性をさらに向上させます。
この2層構造により、防水層全体の耐久性と安定性が強化され、長期的な防水性能が確保されます。
また、ブルーグレーのA材は視認性が高く、施工の仕上がりを確認しやすいため、職人にとっても重要な管理ポイントとなります。
㉔ 屋上立上り 遮熱トップコートの重要性
立上り部分に対しては、遮熱トップコートを施します。
この工程では、塩ビシート防水層が下地にあることを考慮し、温度変化による下地の伸縮を緩和する役割を担う遮熱塗料を使用します。
塩ビ素材は高温環境下で膨張し、低温環境下で収縮する特性があるため、この動きを抑制する遮熱トップコートが不可欠です。
また、遮熱トップコートは紫外線のダメージを防ぎ、防水層の劣化を遅らせる効果もあります。
この工法では、トップコートの性能が防水層全体の寿命に直結するため、適切な塗布量や均一性を保つことが重要です。
立上り部分は特に、塗料の厚みにムラが出ないように、熟練した技術で丁寧に仕上げる必要があります。
㉕ 屋上平場 遮熱トップコートの全面塗布
平場全体にも、遮熱トップコートをローラーで塗布します。
この工程では、長柄のローラーを使用し、広範囲を効率的かつ均一に仕上げます。
遮熱塗料はライトグレーで、防水層に明るい色調を与えるだけでなく、屋上の表面温度を下げる効果があります。
遮熱トップコートを使用することで、夏季の屋上温度が10℃以上低下する場合もあり、建物内部の室温上昇も抑制されます。
この結果、空調設備の負担が軽減され、省エネルギー効果が期待できます。
遮熱トップコートは、防水性能を守る保護層として機能し、外観的な仕上がりにも寄与します。
この仕上げが、防水工事の耐久性と建物の快適性に直結する重要なポイントとなります。
㉖ 平場 トップコート塗布後の最終確認と養生撤去
トップコートの塗布が完全に乾燥した後、最後に養生材を撤去し、施工面の最終確認を行います。
この確認作業では、以下の点を徹底的にチェックします:
- 塗膜の均一性:厚みにムラがないか確認。
- ジョイント部の密閉性:継ぎ目がしっかりと一体化しているか。
- 脱気筒の動作確認:湿気を適切に排出できる状態か。
- 防水層の表面状態:浮きや剥がれ、気泡の有無をチェック。
施工中に用いた「オーバーブリッジ処理」により、ジョイント部分が一体化されており、防水層の切れや裂けが生じにくい構造となっています。ま
た、笠木からの雨水侵入も防ぐよう、丁寧に施工されています。
最終確認では、職人が目視と手触りを駆使して施工面全体の状態をチェックし、防水性能が完全であることを確認します。
養生撤去後、屋上の防水層が美しく仕上がり、遮熱トップコートのライトグレーが建物全体に明るく清潔な印象を与えます。
この工程をもって、全作業が完了します。
㉗ 施工後の仕上がりと性能
施工後、塩ビシート防水層の上に形成されたウレタン塗膜防水層は、ジョイントがなく、完全に一体化した構造となります。
この施工方法の利点は、既存防水層を撤去する必要がないため、工期短縮や廃材削減が実現できる点にあります。
また、ウレタン防水層は継ぎ目がないため、防水性が飛躍的に向上します。
加えて、遮熱トップコートにより、屋上の温度上昇が抑えられ、室内環境の快適性が向上するだけでなく、建物全体の耐久性も高まります。
このようにして、築33年のRC造建物の屋上は、これからも長期間にわたり安心して利用できる状態に仕上がりました。
まとめ:塩ビシート防水からウレタン塗膜防水への改修のメリット
今回採用したサラセーヌ タフガイ SD-AK25T サーモ工法は、既存の塩ビシート防水層を活かしながら新たにウレタン塗膜を積層することで、次のようなメリットを提供します。
- 廃材削減と環境配慮:既存防水層を撤去せずに施工できるため、環境への負荷を低減。
- 高い防水性:ウレタン塗膜のジョイントレス構造により、漏水リスクを大幅に削減。
- 長寿命化:高強度ウレタン塗膜による優れた引っ張り強度と柔軟性で、建物寿命を延長。
- 遮熱効果:トップコートにより夏季の屋上温度を抑制し、建物の省エネ性能向上。
- コスト効率:撤去が不要で工期が短いため、コストパフォーマンスが高い。
ただし、注意点として、降雨時の施工リスクや材料のミックス作業など、経験豊富な職人による適切な判断と技術が必要となります。
また、今回の工事では、塩ビシートの劣化が軽度だったため可能となりましたが、塩ビシートの状態次第では別の工法を選択する場合もあります。
長期的な建物の維持管理の観点から、防水層の状態を定期的に点検し、最適な改修タイミングを見極めることが重要です。
この工事は、築年数が進んだ建物においても、防水性能を最大限に発揮できる優れた選択肢となるでしょう。