いよいよ今回で、荒川区にあるテナントビルの補修塗装工事のご紹介も終わりとなります。本当に課題が多く、また選択を迫られる箇所が多い工事でした。
これまで様々な現場を通して紹介してきましたが、今回の現場はまさにお客様のご要望に添うために、僕の持てる知識と技術と現場力を駆使した集大成の現場だったと思います。最後の完工検査でも、いろいろありましたのでどうぞご覧下さい。

【前回の記事】

目指すのは100%仕上がりではなく「80%の仕上がり」
この塗装工事での課題は、オーナー様がご用意された予算の中でベストな工事をすることです。
文章で書くと、とても簡単に思えますが、古いビルなので本当は全体的な大改修工事が必要な状況でした。しかし、今回の工事では予算に合わせて「これだけは」という箇所を選んで行う必要があったのです。優先順位をつけて、バランスを取りながら行う工事は、ある意味究極の選択的なところもあり、非常に難しいものでした。
日頃から同じようなビルの見積依頼が来ますが、費用が合わずに通らないものも多いです。それくらいビルの塗装工事は、費用とのバランスが難しい傾向にあります。また、塗装職人の工事は他社に比べて高い傾向にあるため、見積もり依頼を頂いたお客様からは「他社はこの価格だったのだけど、この価格でできない?」と言われることもあります。しかし、塗装職人の工事は他社と同じ価格ではできません。
なぜなら、工事内容を省いたり、材料を省くなどの手抜きをしたりしないからです。職人たちは、持てる技術を持って全力で工事をしています。その技術や施工内容に見合う費用が、どうしても必要なのです。今回も、補修工事箇所などは限られた内容ではありましたが、しっかりと工事したことでオーナー様からも「プロ集団」とお褒めの言葉を頂きました。
僕はいつも100%ではなく、80%の仕上がりを目指し工事しています。補修工事、塗装工事、防水工事などいずれかの工事を100%にした時、必ず他の工事にしわ寄せが出るからです。
塗装、防水もしくは改修工事というのは、水と油を同時に扱う工事なので、80%のところでぎりぎりお互いの領域を浸食しないくらいのバランスで工事をすると、上手くまとまります。今回の工事もまさに80%を目指して、バランスが取れた工事でした。
それでは、完工検査の様子をご覧ください。
階段の塗装工事の仕上がり
まずは、階段の完工検査をしました。
ここでは、階段への長尺シートの張り込み、ささら部分の塗装、階段手すりの塗装、壁に取り付けられた笠木の塗装、排水口の塗装を行っています。階段の壁面は、塗装していません。
最初にチェックしたのは、排水口です。ここは通称ドレンといい、雨水や雑排水などを流す溝です。ここのドレンの仕様は変わっていて、2箇所隣り合わせに設置されています。通常ドレンは1箇所のみですので、設計する際に水が入り込むことを予測して設置したのでしょう。
ドレン周りは、しっかりと防水工事を施し仕上げました。

次に階段をチェックします。この階段は半屋外になっており、外に面している部分は腰の高さまで壁です。そのため、雨などが侵入しやすくなっています。階段の床面には長尺シートを貼り込みました。

本来であれば、雨水などが入りやすい箇所には長尺シートの貼り込みはあまり向いていません。雨の影響で長尺シートが傷みやすくなり、傷んだ長尺シートは再度工事する際に、シートを剥がさなければならないのです。そのため、次の工事の時にかなり費用がかかってしまいます。
しかし、このビルの階段は鉄枠がボロボロで、塗料では階段の補強ができません。そこで、長尺シートで階段を覆い補強をし、尚且つ見栄え良く仕上げたのです。
もちろん、このブログで述べたようなマイナス点はお伝えしています。階段の土台となる鉄枠に穴などがなく、階段の状態が良ければ、磨耗に耐性の高い床用の塗料を提案できたでしょう。そのほうがランニングコストは良くなります。
しかし、今回はランニングコストを加味しても、長尺シートで補強しなければ階段の補修ができなかったため、長尺シートを蹴り込み部分にも巻き付け階段を覆う工事方法となりました。

この階段は角に水が溜まりやすく、水が滞留すると錆びにつながるため、階段から壁に繋がるささら(写真中程にある階段の脇にある直角三角形のような立ち上がり部分)は、防水工事をしています。
写真で見ると、手すりもささらもグレーで塗ってあるため同じように見えますが、別の塗料を塗ることで、少しでも錆びを抑えられるように工夫して仕上げました。ささら部分を防水塗装にしたので、通常の塗装費用よりは高くなりましたが、ここは費用をかけるべきところとして、オーナー様がご決断下さったのです。
階段の腰壁は、笠木のみ塗装しています。できれば、壁に入ったクラックなども補修したいところではありました。しかし、クラックの補修をするとなると足場が必要になります。今回は、足場代は最小限に抑えたため、壁面の補修工事はできませんでした。
もちろん、笠木と階段手すりの鉄部塗装、階段に巻いた長尺シート、ささら部分の防水塗装、ドレン部分の防水工事だけでは、雨水被害がなくなるわけではありません。しかし、最低限雨が降り込んでも下部分に雨水が溜まってグズグズにならないように工夫して、少しでも階段部分が綺麗で持つように工事をさせて頂きました。写真からも、端末処理など非常に綺麗に仕上がっていることがお分かり頂けると思います。
この階段は1階部分まで、手すりを塗装し、1・2階は階段の外壁に覆いがありましたので、防水工事は3階以上で行いました。工事の予算を削れるところは削り、かけるべき所には費用をかけて行った工事です。お客様にも仕上がりを喜んで頂けました。
外壁のタイル補修工事
赤いレンガ調のタイルが張り込まれた外壁は、タイルが剥落している部分と剥落しそうな部分を中心に補修工事をしました。さらに写真を見て分かるように、真ん中部分にシーリングを打ち、タイルにかかる力を分散できるように考え仕上げています。これで今後は、多少タイルにかかる力が少なくなりタイルが割れるのを回避できるでしょう。
こちらのタイル壁は、部分足場をかけようとした矢先に隣のビルで工事が始まってしまい、非常に苦労した箇所でした。足下には点字ブロックがあり足場が建てられない状況でしたので、細部まで気を配った現場です。
僕が信頼する職人たちだからこそ、この繊細な壁の補修工事が出来たのだと思います。足場を撤収した後も、路面に傷もなく工事を終えることができました。
塔屋の補修工事
塔屋の補修工事も、手を入れられる箇所と入れられない箇所があり、工事ができる範囲の中でベストを尽くしました。塔屋は、非常階段やパイプだけ塗装し、壁面外側2面は塗っていません。

この塔屋は、屋根の上に高架水槽が置かれ高架水槽の周りは柵で囲まれています。そして、柵の下の塔屋の屋根部分には外壁の立ち上がり部分があり、その上部には笠木がかぶせてありました。

この笠木が、2面腐っていたのです。そこで、2面は補修工事を行い、反対側の笠木は補修せずそのままにすることにしました。奥にある笠木の傷んでいる箇所は、苦肉の策で手が届く範囲にだけ、防水テープを貼って補修しました。
塔屋の工事は、全体的な美観の補修工事というよりは、穴が空いている箇所など応急処置がメインの工事です。必要な箇所のみの補修工事をし、補修した部分は予定通りの仕上がりとなりました。
屋上の床面防水工事
屋上は、腰壁の補修工事と排水工事を行った上で、通常の防水工事を行いました。排水口には改修ドレンを新しく入れ、排水口の周りを座彫りし床面よりも低くすることで排水をスムーズにしています。

前回床に撒いた防水材が、ほとんど剥がれている状態だったのですが、なんとか綺麗に防水層を重ねられました。また防水層を重ねていますので、脱気筒を設置し湿気などが抜けるようにしています。これでこのビルの工事は終了です。
補修が必要な箇所を全て工事することは出来ませんでしたが、バランスを見て最善の工事ができたと思います。
【関連動画】
工事を終えて
今回の現場は、古いビルということ、そして限られた予算などがあり非常に難しい工事でした。
さらにオーナーの方が台湾の方で、言葉の壁もあり、居住者の方たちも海外の方が多く、工事内容の伝達がままならぬことも…。せっかく仕上げた床面がすぐに汚されてしまったり、塗ったばかりの壁に台車が立てかけられ塗装が剥げてしまったりなどのアクシデントもありました。
職人たちには、たくさんの苦労をかけたと思います。今回は完工検査を行いながら、タッチアップなども行い、なんとか美しい状態でお客様にお渡しができ一安心しました。

工事をして毎回思うのは、「工事に大切なのは未来を見通せる目」ということです。現在の仕上がりだけでなく、工事後のことまで視野に入れる。そうすることで、最善の工法を見つけることができます。
今回このビルで行った工事も、最善の工事ではありましたが、どのビルでもできるものではありません。建物の状態や予算、状況などから選び抜いた物です。こうした長尺シートの張り込み工事の紹介をすると、「うちでも階段全体に長尺シートを貼り込みたい」とご連絡を頂くことがあります。しかし、どんなに状態が似ていても、建物の状態、環境、工事予算の違いから、同じ工事はできないのです。
僕は普段から、塗装工事というのはオーダーメイドの工事だと思っています。建物の状態と予算を考えながら、材料や工事方法などをパズルのように組み立てているものなのです。
また建物を建てた人の意向も汲む必要もあります。今回工事した雑居ビルの階段部分にあった2箇所のドレンなどは、このビルを建てた際に、雨水の入り込む量を考えて設置されているはずです。そうした意図を理解しながら工事することが、再塗装する際には必要となります。
本音を言えば、このビルの工事は他にも補修した方が良い箇所がありました。しかし、職人の思いだけでは工事はできません。それぞれの仕事や材料に見合う費用があって初めて発揮できるものなのです。僕はそうしたバランスと、建物全体を納めることを考えてする工事こそ、お客様に寄りそう工事だと思います。
今後もまた、塗装職人ではさまざまな工事を行います。塗装工事をお考えの際にはご相談ください。スタッフと職人が一丸となって工事が出来ればと思います。