目次
前回ご紹介しましたマンションの補修塗装工事の続きです。
今回は下地調整、そして雨漏り補修についてのお話をいたします。
こちらの建物は前回もお話したとおり、建物の前面がRを描いている壁のため足場を建てるのに非常に苦労をしました。
また、壁がALC造になっているのですが、通常のALCよりも造りが複雑で、足場を建てるためのアンカーが打てないため、気をつけなければならないことが…。
そんな難しい現場なので、塗装前の補修工事をするにあたって慎重かつさまざまな工夫をしました。
〔関連記事:前回のブログ 足場を立てる前の準備〕
足場つなぎの打てない外壁で難しいこととは
通常足場を建てる際には、『足場つなぎ』…つまりは壁に足場を固定させるためのアンカーが必要となります。
しかも今回は、壁面がR状でしたので尚更です。しかし壁自体が脆い状態で、ALC用のアンカーさえも打てず、補助をいれずに足場を建てることになりました。
そのため、足場が風にあおられないよう、張り巡らすメッシュシートを小まめに巻き上げるなどが必要です。
メッシュシートは、工事が続く場合は張ったままでもいいのですが、工事と工事の合間で間隔が空く場合や、ゲリラ豪雨がありそうな時や、台風予想がでた時はメッシュシートを巻き上げます。
アンカーが打てないからこそ、そうした細かな作業が安全な工事をするために重要なのです。
〔関連動画:足場のアンカーを説明〕
補修工事前の必須調査とは
さて、高層の建物は足場を建てたあとすぐに行うことがあります。それはパルハンマーを使って行う調査です。この調査では、塗装面が下地から剥離しているのかを調べます。
調べることで、補修が必要な箇所が明確になるのです。
見積もりの際に、家のまわりをぐるりとまわり外壁のクラックなどを見ておおよその補修箇所の予想をたてるのですが、これはあくまでも見込みで、建物を覆うタイルの割合などから爆裂の数を計算で出しています。
〔関連動画:パルハンマーを使った調査〕
補修工事はあくまでも実数精算のため、予想とは費用が違う場合も…。
しかし、こうした工事すべき場所をしっかりと家の傷んでいるところを把握することが大切です。
把握した上で、工事予算がオーバーしてしまう場合は、行うはずだった廊下などの工事を翌年に回し、今回は破損箇所の補修を行うなど…工事の内容をお客様と詰め、最終的な補修箇所を決定します。
今回の建物の場合は、最後にタイルの上にセブンSSを塗るため、細かなクラックは補修せずにセブンSSでカバーすることになりました。
(セブンSSは仕上げるとタイルの上に厚めの膜ができます)
工程のすべてを考えて、必要な工事と後回しに出来る工事をお客様に判断して頂くことが、良質な工事をするために何よりも大切です。
補修工事その1
パルハンマーで検査する際に、補修が必要なクラックなどには印やテープを貼り付けます。こうすることで、補修工事をする職人がどこを修復すればいいのか分かるのです。
こちらの写真をご覧ください。
Pという文字は、ポイントをあらわしています。またテープの色によって指示が違うので、職人はその指示にしたがって、一つずつクラックなどを補修します。
その後、下地調整をして補修材によってできた壁の段差を取り、塗装しやすいように平らにしました。
下地調整をした中で、特徴的な補修工事としては、こちらの基礎部分です。
今回補修を担当した職人が、いわゆる昔ながらの手技で基礎の割れを補修しました。
基礎はコンクリートなどで出来ているため、モルタルなどで補修を行う必要があります。
モルタルは、砂とセメントを使ってよく混ぜあわせ最後に水で堅さを調整するのですが、最近ではこうしたモルタルを作れる職人が減っていることをみなさんご存じでしょうか?
このモルタル作りは、気温や湿度も関わってくるため、職人が目で見て、手の感覚を頼りに作ります。
水を扱うため、軍手もせず素手で触りながら調整するのです。
こうすることで、補修するのに的確なモルタルが出来上がります。
今回は小手だけで、このように美しくしあげました。1回だけではなく、何回も塗り込めることで、しっかりと補修をするのです。
最近は職人も大分変わってきましたので、これだけモルタルを操り、コンクリートも打てる人はなかなかいません。(この職人は土間打ちもある程度やります)
塗装職人は安さに走らず技術を大切にする会社だからこそ、こうした手技を持った職人が工事に携わるのです。
補修工事その2
次にタイルの補修工事を行いました。
こちらは、割れた部分のタイルをはがし、その後下地をつくりタイルを貼っていきます。
20数年前のタイルなので、普通は色合わせが難しいのですが、弊社の職人はドンピシャにタイルの色をあてはめ、オーナー様も非常に喜んでいました。
今回はタイル補修とともに、雨漏りの補修も。
まずはクラックや、タイルなどの割れ部分など取り除き掃除をします。
雨漏り原因として考えられるところを接着材プラス下地材でしっかりと塞いで、下地のシールも打ち、最後にタイルを貼り込み、タイルの貼り込みように覆った紙を濡れたスポンジでなでて、シールを剥がし完成です。
〔関連動画:タイルの張り替え〕
タイルの貼り込みが終わったら、目地材も打ち込み、こちらも余分な目地材はスポンジで拭うことによって目地部分にしっかりと目地材が入ります。ただ、タイルの上には目地材がうっすら残ることもあるので、洗浄が必要です。そこで、高圧洗浄を行います。
雨漏りを防ぎ、下地や目地材もしっかりと打ちましたので、高圧洗浄することで散水試験も兼ねることが可能となるのです。
雨漏りのある建物の場合、補修工事を行ってから高圧洗浄をすることで、散水試験を兼ねることができます。
といっても、この散水試験だけで雨漏りが止まったと言えるわけではないのです。
なぜ散水試験だけではだめなのか、雨漏りを根治させることの難しさについてもお話しいたします。
高圧洗浄を行う理由について
高圧洗浄を行う際に、散水試験を兼ねることについてはお話しいたしました。
それ以外に、高圧洗浄をおこなう最大の理由は、塗料が密着しやすいように壁面や屋根についた汚れを取り除くことです。
また、補修する際にでた余分な補修材などもしっかりと落とします。
(塗装箇所ではありませんが…洗浄のついでに、カーポートや階段部分にかかっている屋根のアクリル板も洗うことも。しかし、こちらの汚れは日光で焼け残ってしまっているため洗っても落ちないことが多いです。)
また屋根上など高圧洗浄で落としにくい汚れは、薬品を使って洗浄する場合も。
高架水槽、外壁、窓周りのシール部分、シャッターなど、すべてをしっかりと洗うことで塗装しやすくするのです。
さらに高圧洗浄する際には、建物の下から順に水をかけるよう気をつけなければなりません。
これは散水試験を兼ねている場合に大きな意味を持つのですが、上から一気に水をかけてしまうとどこから雨漏りしているかが分からなくなってしまいます。
雨漏り箇所が屋根か外壁かを見分けるためにも、下から順番に洗っていくことが重要なのです。
〔関連記事:マンション大規模改修の高圧洗浄〕
雨漏り補修工事の難しさ
ここまで高圧洗浄時に散水試験を行うことをご説明いたしましたが、高圧洗浄時に漏れている箇所が無いからと言って『雨漏りが止まった』とは言えません。
というのも、雨漏りの原因箇所は、破損している箇所から単純に雨が入り込む場合と、台風などの風の吹き方で雨が入り込み雨漏りとなる場合もあるからです。
そのため、工事が終わってからも雨漏りの経過観察は続きます。
たまに、ネットの広告などで「雨漏りを100%止めます」と銘打っているのを目にします。
僕からしますと、これは非常に怖い広告です。
なぜなら、雨漏りを止めるためにたった1回の工事結果では、根治したとは言い切れません。
弊社で雨漏り補修を請け負った場合は、工事が終わり、ゲリラ豪雨や台風なども3〜4回ほどやり過ごし雨漏り症状がでないことで、なんとか雨漏り原因を塞ぐことができたと判断します。
どんな家でもそうですが、家が古くなっていくのを新しくすることはできませんし、雨漏りをして腐った箇所を乾燥することはできても、元の状態には戻りません。
だからこそ、長期で経過観察することが必要なのです。
また、雨漏りは補修工事をしていくと、ほつれが出てくることがあります。
水の出口を塞いでしまったが故に、水の行き場がなくなるなどして他の場所に不具合がでるのです。だからこそ僕は雨漏りの補修工事は切りきざんでつなぐ大手術ではなく、温存できる補修をできればと思います。
〔関連動画:雨漏りの悩みから解放された3度目の屋上防水〕
非破壊的措置をとることで、雨漏りを止めたいのです。
また雨漏り原因は様々ですので、僕は職人だけでなく建材のメーカーや商社にも話を聞きます。
そうして原因などを追求して考え抜くことで、なんとか雨漏りを根治へと導くことができるのです。
雨漏りを止めることがいかに大変かを知っているからこそ、「100%止めます」という言葉を怖く思います。
今回の雨漏り箇所も、工事中に散水試験も行っていますが経過を見ないことには止められたのか止められていないのかと言うことは分かりません。
それでも、そうした中で最良の工事をおこなうことで、お客様の希望に応えていきたいのです。
お客様のご希望に応えるために塗装職人ができること
今回、補修工事を行う際に、壁にツバメの巣がありました。
オーナー様から「ツバメの巣は縁起物だから、巣立ってから壊して欲しい」とリクエストがあり、ぎりぎりまで様子を見ることに。
結果としては、なんとか高圧洗浄前に巣立ちが間に合い事なきを得たのです。
もちろん、ぎりぎりまで他の作業を進めるタイミングを見ていましたが、最終的に工事が止まることになっていたら、お客様に最終的な判断をお願いしたかと思います。
工事が伸びれば、その分だけ人工代などがかかり、しいてはお客様の負担となるからです。
工事は、その時折でお客様に判断していただくことが多くあります。
私たちは決して工事の方法を押しつけることや、勝手な工事をして法外な値段をふっかけるということはしません。
今回も、パルハンマーで検査の結果、見積もりよりは多い破損箇所があり、お客様に修復するところ、今回は後回しにするところなどを選んで頂きました。
そうした判断をする際にも、寄り添い丁寧な提案をするのが我々塗装職人の役目です。
本番工事前の塗装準備ではありますが、ただの下地調整や高圧洗浄であっても、お客様の家に合った工事を完成させるために、さまざまなご提案ができるよう、これからも工事に取り組んで行ければと思います。
〔関連動画:こちらの現場の工事全工程〕